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Selfishly

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駄目な男  Act8「恋の障害物-3」


駄目な男   


          Act 7「恋の障害物-3」


「議長、先ほどの討議の中に出てきた件で・・・」
「すみません、○○シティーの者ですが、至急、お願いしたい件がありまして・・・」
「この前、要請を出していた件は、どうなったのですかな?
 一向に返答が・・・」

午前中の議会の討論が終わると、ワラワラと人が群がってくる。
討議の内容から始まり、この時とばかりに要請・嘆願・陳情etc・etc・・・。

ロイとリザは、その対応におおわらわさせられていた。
今回初のアメトリス全土の総会には、それぞれの代表が集まっては
討議を繰り返している。
項目やセクションごとに、相談コーナーも設けているのだが、
そういう所での申請は時間がかかることも解っているので、
直接とばかりに、皆が集まってくるのだ。

内心の辟易した心情は隠し、にこやかに無難な対応を示しながら、
チラリと、もう1つ出来ている人垣の方に視線を向ける。

そちらでは、自分の周りのように殺伐とはしておらず、
にこやかに談笑しているのが、伝わってくる。
リゼンブール復興を手がけ、国中に名を馳せた高名な兄弟と、
懇意になりたい者や、師事を仰ぎたいもの、
素直に尊崇を持つ者など、取り取りに集まり華やかだ。

討議の後は、昼食を挟んで各セミナーが開かれる。
そうなると、複数の講師を頼まれている二人は、かなり多忙になる。
エドワードが、主に「復興と産業の導入」関連を担当し、
アルフォンスが「都市開発と環境保護」を受け持つと、昨夜話していたのを聞いていた。

『昨夜・・・』
昨日の夜に思考が流れると、知らず知らずのうちに、重いため息が出てしまう。

一緒に料理から始まり、一緒にお風呂・・・出てからのいちゃつきぶりには、
さすがのロイも、米神に青筋が浮いた。

相手が、血を分けた弟とは言え、あれは余りに余りではないだろうか。

「兄さん、ほら髪ちゃんと拭かないと」

嬉しそうにタオルを取り上げると、恭しく髪を拭き始める。

「んっ・・・」

セミナーの資料に目を通している彼は、こうなると何を言っても、しても
殆ど無関心状態になるのは、昔からだ。

「兄さんの髪って、やっぱり綺麗だよね~」

丁寧にタオルで髪を包み、優しく叩きながら水気を拭き取っていく。

「アル、これさ・・」と

資料の中から質問をする度に、「ん?何?」
と囁くように後ろから被さるようにして、エドワードの手元を覗き込む。
互いの頬が触れ合うまで間近に交わされている会話に、
ロイも、自分の資料に目を通していたが、もう、紙面の文字を追うどころではない。
(書類の握られていた箇所は、皺が寄りすぎて、くちゃくちゃになってしまい、
 今朝、秘書のリザにかなり叱られた)

そして、最後の仕上げとばかりに、乾いた髪を手櫛で整えながら、
一房持つと、口付けを落としているシーンは、どこから見ても、
愛しい恋人にする仕草としか思えない。
そして、腹ただしい事に、エドワードは全く気にしてもいないのだ!
資料に夢中なのか、もしかしたら・・・常日頃過ぎて、慣れているか・・・、
後者なら、怖すぎる。

そこはかではなく、はっきりと疎外感を感じさせられているロイが、
場に漂う空気を変え様と、業とらしい咳払いをして、アルフォンスに話しかける。

「そのぉ・・、アルフォンス君は、なんだね・・、かなりマメなんだね」

その言葉に、面倒くさげに視線を向け、何がですか?と聞いてくる。

「いっ、いや、そうやって、風呂上りに髪まで拭いてあげるのに慣れているようだから、
 家でも奥さんや、子供さんにしてあげているからかな・・・と」

そうだ!彼にはきちんと、妻子がいるのだ。
ロイは失念していた事を、急に思い出すと、何故か心に安堵の気持ちが浮かんできた。

「えっ? ああ。
 いいえ、僕は家では こんな事しませんよ?
 まぁ、子供たちはたまに一緒に入った時には、勿論拭いてやりますが。
 そう言えば、ウィンリーにはした事無いなぁー。

 兄さんは特別です。 一緒に居た頃は、いつも僕が拭いてあげてたのに・・・」

そう語りながら、恨みがましそうな視線が、ロイに流されてくる。

『うっ・・・』

拙い方に話が流れてしまった・・・、冷たい視線に曝されながら、
背筋に冷たい汗が、伝っていく。

丁度良く、エドワードが資料に目を通し終わったらしく、

「よし、OK。 ん? ロイ、どうかしたのか?」

妙な表情で、自分を見ている(正確には、エドワードの後ろにいる、アルフォンスにだが)
相手に、怪訝そうに聞いてくる。

「いっ、いや。 ・・・そろそろ、時刻も遅くなってきたから、
 寝るほうがいいんじゃないかな?」

そのロイの返事に、時計を見ると慌てて資料を纏め始める。

「もう、こんな時間かよ!
 アル、悪い。 解らないところは、また明日にでも聞くよ。
 お前も、そろそろ休んでくれ」

タオルを受け取り、エドワードがそう薦めると、

「一緒に寝ようよ、兄さん」

ニコリと笑顔で、そんな事を告げてくる。

『きた!』と思ったのは、エドワードだったのか、ロイだったのか・・・。

この流れでは、間違いなくそう言ってくるだろうことは、予測に固かった。
怒りの不燃焼のように燻る思いを抱えながら、ロイは半場諦めていたのだが。

「あっ、それ無理。
 お前も見ただろ? あのベットで図体のでかいお前とじゃあ無理に決まってるだろ?」

「えー!? じゃあ、兄さんの部屋でもいいよ」

「俺の部屋のベットも、お前のと同じなの。
 いい歳して、恥ずかしいこと言ってんなよ。
 ウィンリーに言いつけるぞ」

茶化すように言えば、弟はプーと膨れて不満を露にするが、
さすが、恐妻の妻の名を出されれば、引き下がるしかない。

ほらほらと、弟の背に手を添えて、部屋から連れ出してやる。
その際に、呆気に取られて見ていたロイに、ウィンクを送ってくる。

漸く、エドワードがあの部屋を選んだ原因がわかった。
ロイは苦笑を浮かべながら、エドワードに頷き返してやる。

それぞれが部屋に入って暫くすると、

「よいしょっと」

小さな練成を起こして、エドワードが部屋から移って来る。

「やぁ」

室内の照明を落とし、ベットに腰をかける形で待っていたロイが、
嬉しそうに、控えめな声をかける。

「ん。 今日は、色々ごめんな」

差し伸べられた手に、素直に身体を預けながら、謝罪を口にする。

「ははは・・・まぁ、仕方ないね。

 しかし・・・、一緒に寝てまでいたのかね?」

あのアルフォンスの口ぶりだと、特別変わった事を言った風でもなさそうで、

「うん・・・。 ほら、アルが元の身体に戻った時に、
 あいつ、身体弱らせてたって言ってただろ?

 だから、俺・・・目が離せなかったんだ・・・怖くて」

折角、取り戻した身体は衰弱に衰弱し切っていて、
ほんの少しの病気も命取りになる程弱っていた。
アルフォンスが目を閉じると、このまま開かないのではと浮かんでくる恐怖が、
アルフォンスと離れる事を、由としなかったのだ。
それがいつしか習慣になり、それは弟が結婚して家が分かれるまで続き、
まぁたまに、お泊りした時に、ベットに潜り込んできているは内緒だ。

「そうか・・・、そういう事なら、仕方ないな・・・」

彼が弟の身体を取り戻すために、どれほど過酷な想いを乗り越えてきたのかは、
1番身近で見ていたロイが、一番良く知っている。
だから、エドワードの気持ちは、よくわかる・・・わかるが。

はぁ~と複雑な思いを吐き出す相手に、エドワードが、済まなそうに窺っている。

「いいさ、今はこうして、私の傍に来てくれてるんだから」

折角の短い逢瀬だ。気鬱になっている場合ではない。
結わえてない洗い立ての髪が、さらりと零れている髪を優しく梳きながら引き寄せると、
しっとりと唇を合わせていく。

「んっ・・・」

鼻から抜ける艶めいた声に、ロイは満足そうに、口付けを深くする。
そして、しばらくぶりの唇を堪能し、呼吸を整える為に、
必要最低限の隙間だけ空けて、話しかける。

「君が、アルフォンス君の部屋をあそこに選んだのは、
 さっきの牽制の為なのかい?」

潤んだ瞳で見返してくるエドワードの表情が、悩ましい。

「う~ん、それもあるけど、 多分、あれでは終わらないはずなんだ、
 あいつの事だから」

考え込むようにして返された言葉に、ロイは疑問符を浮かべる。

「それと・・・そのぉ、残り半分は、俺の為かな」

こうやって、あんたの顔を見るためのと、照れながら触れるように口付けてくる相手に、
ロイは嬉しさで、抱きしめる腕に力が籠もる。

『もう、今日はこのまま、ここで・・・』
と強請ろうかと浮かんだ矢先に、

カチャンと扉が開く音と、トントンと小さくノックする音が、
隣の部屋から聞こえてくる・・・?

「やっぱ、来たか・・・。
 じゃあ、ごめんな、部屋に帰る。お休み」

そう言って、慌しく去っていく恋人の姿を目に、部屋に一人残されたロイは、

「やっぱ、来たか・・・?」

謎の言葉を繰り返し、どういう意味だろう?と悩んでいた。



「では、この続きは、昼からお集まり頂いてからと言う事で」

キビキビと散会を告げる秘書の声で、ロイは過去に戻っていた思考を
慌てて引き戻してくる。

そして・・・、気が付けば、エルリック兄弟ご一行様は、姿を消していた。



「全く、開催中は定時で上がれるなんて、誰が言ったんだ」

腹ただしげに愚痴を口にしながら、今日の討議の議事録に目を走らせる。

「さぁ? 暢気などこかのどなたかの願望だったんでは」

まさか聞かれていたとは思わず、返ってきた秘書の言葉に、ドキリとする。
この後も、懇親会だら、顔合わせや打ち合わせだとかで、
終わってからもハードでタイトなスケジュールが、びっしりと組み込まれている。
これが、この1週間続くかと思えば、うんざりするが、
戻っても、あの状態では好都合かもしれない。

あれから3日経つが、彼らのいちゃつきぶりは、ますますヒートしているようにしか見えない。
離れていた時間を取り戻すかのように、片時も兄の傍を離れないアルフォンスと、
仕方ないと苦笑しながらも、許しているエドワード。

自分なぞ、就寝前に本の少しだけ、顔を見せに来てくれる時しか
彼に触れられないと言うのに・・・。
しかも、どういうわけか、エドワードが部屋に来て暫く経つと、
お決まりのように、アルフォンスがエドワードの部屋をノックするのだ。
絶対に、邪魔されているとしか思えない。

ストレスと欲求不満で、苛々は積もる一方だ。

心身とも疲れ果てて、家に戻ってくると、灯りが漏れている。
どうやら、二人は先に戻ってきているようだ。

「ただいま」と気分同様、低い声で声をかけ、
中からの応えが無いのに気にせずに、気配のするリビングへと向かう。

開きのリビングへの入り口から、その中が見えた時、
瞬間、入ろうとしていた足が硬直する程のシーンが見えた。

ムートンのカーペットに寝転がるようにして、並んでいる二人は、
肘を立てて一心不乱に書類でも読んでいるのか、動かないエドワードと、
それに覆いかぶさるように手を回しているアルフォンスが居て、
兄弟の(?)愛情表現をせっせと示している。

「チュッ」と音がする程のキスを項に贈り、
悪戯するように耳たぶを甘噛みしたりして・・・。
どう見ても・・・・どう譲って見てみても、
絶対に兄弟のスキンシップじゃない!!


ドサリと手に持っていた鞄を落とし、呆気にとられて目の前の情景を
見ているロイに、アルフォンスはちらりと視線を投げ、
フフンと勝ち誇ったような笑みを見せ付けてくる。

その態度に、疲れきって疲弊していた忍耐が、プチンと最後の細い1本が切れる。

「エ、エ、エドワード!!」

「わっ!」

大音量で名前を呼ばれ、さすがに驚いたエドワードが、何事かと跳ね起きる。

「ど、どうしたんだ・・・ロイ?」

横では、アルフォンスが素知らぬ振りを決め込んでいる。

ずかずかと、エドワードの傍まで近づくと、有無を言わせずに腕を取り、
グイッと腕を引っ張り上げると、そのまま強引に、部屋から引きずり出すようにして
連れ出そうとする。

「ちょ、ちょお、何だよ? どうしたんだ?」

只ならぬ相手の雰囲気に推されて、オタオタしながらも引かれるままに付いていく。
ズンズンと不機嫌極まりない表情で、2階の部屋に歩いていき、
適当な部屋に入ると、さっさと鍵をかけてしまう。

「おっ、おい?」

押されるように、部屋に備え付けられているベットに座らされると、
戸惑っているまに、腰を抱くようにして、縋りつき、
膝枕をしてもらうように、ポトンと頭を凭せ掛けて、寝転がってくる。

「ロイ?」

そんな相手に、最初こそは驚きと、次に呆れが浮かんでくるが、
フーと息を吐き出すと、縋ってくる男の髪を撫でながら、声をかけてやる。

何も言い返してこない相手に、エドワードも強いて声をかけず、
黙ったまま、髪を梳き続けてやる。
暫く、暗闇の中でそうして過ごしていると、少し落ち着いてきたのか、

「嫌だったんだ・・・」

ボソリとくぐもった声が、小さく響く。

「えっ?」

「君らが・・・仲の良い兄弟なのは、わかってる、
 わかってるつもりだったんだ。
 ・・・・でも、嫌だった・・・」

そう告白する男に、エドワードは、「そっか・・・、ゴメンな?」

と優しくなる声を押さえられずに、謝りの言葉を告げる。

「ん・・・」

そう短く返事を返し、ロイはそのまま、また黙り込む。
子供のように駄々をこね、大人気なく拗ねている、いい歳をした男と
触れ合う温かな場所から、愛しさを感じていく。
相手が不足していたのは、互いに同じだ。
こうやって身を寄せていると、足りなかったものが何かがわかってくる。

「ほんとに、ごめんな?
 俺、アルには頭上がんないんだ・・・」

そんな風に話し出したエドワードに、ロイは思わず伏せていた顔を上げる。

「俺、あんたと別れてから暫くして、俺らの身体を取り戻しただろ?
 それから暫くは、アルの身体が弱ってたのやら、俺も自分の手足のリハビリとかに
 必死でさ。 毎日、それで一杯一杯だったんで、あんたと別れた後も、
 何とか乗り越せてきたんだ。

 でも、アルの容態も安定して、俺も自分の手足に違和感がなくなりだすと、
 ポカンと空いた時間・・・、空いてたのは、もしかしたら自分の心の中だったのかも
 知れないけど、それが堪らなく辛くなってきて・・・」

「・・・エドワード」

「喪失感・・てのかな? ぼんやりとする日が増えていってさ。
 何にもする気もおきなくて。
 あの頃は、アルが全部面倒見てくれてたんだ。
 言わなくちゃ食べない俺に食べさせて、風呂もいれてくれて、着替えもさせてくれる。
 寝れなくなった俺に、辛抱強く付き合って、起きてくれて、
 寝かしつけてくれて。

 もう本当に、どっちが兄かもわからない有様でさ。
 それでも、あんまり元気にならない俺に、
 アルが言ったんだよ。

 『いいんだよ、兄さん、無理しなくて。
  今までずっと、兄さんが僕を見てきてくれたんだから、
  これからは、僕が見る番なんだから』ってさ。

 あいつは、多分、俺が抱えていた穴を埋めようと必死だったんだと思う。
 漸く身体が元に戻って、これから何でも出来るようになるってのに、
 俺の為に、またそれを全部あきらめる覚悟だったんじゃないかと思う。

 それが申し訳なくて、不甲斐ない自分が嫌になって、
 その日、初めてアルの前で、わんわん泣いたんだ。
 一杯、愚痴も言ったし、あんたの悪口も山ほど言ったと思う。
 辛いって言えて、寂しいって縋って、哀しいって喚いて・・・。

 で、泣くだけ泣いて、吐き出すまで吐き出したら、
 漸く、歩き出せる気になった。
 で、その後勉強と、まぁその、傷心旅行兼ねてシンに独りで行ってみたりして、
 戻ってきた時も、あいつは変わらず待っててくれて、
 『お帰り』って、笑って言ってくれて。

 俺はあんたを失った穴は埋めれないって気づいていたけど、
 それでも生きて行こうと思えたのは、アルが待ち続けてくれてたからなんだ。

 俺は、兄ちゃんなんだから、あいつに心配かけて待たせてるようじゃ
 駄目だろ?
 だから、頑張ろうって。

 でも、あいつには1番格好悪い時見られてるしさ、
 駄目駄目の時に助けられただろ?
 だから、頭上がんないんだ」


闇に慣れてきた目に、エドワードの苦笑が見て取れた。

「ごめんな? あいつの頑なな態度の大半は、俺のせいなんだ。
 だから、怒らないでやって欲しい。
 怒るなら、あいつをあんなにしてしまった、俺にして」

今は起き上がり、エドワードに向き直っているロイに
頼むように言ってくる言ってくる彼に、
ロイは握り合った手を、ギュッと力を籠めて、握り返す。

「そうか・・・、じゃあアルフォンス君には、逆に感謝しなくてはいけないな」

「ロイ?」

「君がこうして私の目の前に居てくれるのも、
 彼の頑張りがあったからなのだろう?
 なら、感謝しても仕切れない程だ。
 彼は、私の恩人だな」

そう言ってくれる男の気配が和らいだことに、
エドワードはホッとしながら、ありがとうと呟いた。

「じゃあ、彼の態度で被害を受けた分は、
 君に支払って貰う事にしよう」

そう告げながら、両肩に手を置いた男は、
ゆっくりとそのまま、体重をかけてエドワードを押し倒す。

「ロ、ロイっ!」

「君になら、いいんだろ?」

そう問いかけてくる相手は、絶対に引かない姿勢を示してくる。
顔中に口付けを落とし、不在の日々を埋めるように
身体を擦り合せてくるのに、エドワードも諦めて腕を回す。
ここら辺で、ご褒美を1度渡しておかないと、
残りの日々が、もたないかとも思うし・・・。

その夜は、さすがにアルフォンスの邪魔も入らず、
二人は朝まで、下には降りては来なかった。

翌朝、階下から、アルフォンスの「ご飯だよー!」の怒鳴り声に、
大慌てで、下に降りていく。
すっきりとした、上機嫌な表情で用意をしているロイと、
恥かしさで消え入りそうになっている兄の様子を、
交互に見ながら、面白くも無さそうに一人で黙々と朝食を食べている。

「アル、ご、ごめんな朝まで作ってもらって」

「アルフォンス君も料理が上手だね、まぁ、エドワード程ではないが」

慌てて食べ終わり、焦ったように礼を口にするエドワードに、
ロイはそんな言葉を付けたし、エドワードの唇に朝の挨拶とばかりに
口付けを落とす。

「・・・」 固まるエドワードと、

「マスタング議長・・・?」怒りに燃えるアルフォンスの地を這うような声が響く。

「マスタング議長なんて、他人行儀な。
 義兄さんと呼んでくれて、構わないんだよ?」

「ろっ、ロイー!」

「・・・」 今度の反応は、逆になって返ってきた。

一晩の栄養補給をタップリした男は、本来の強かで、不遜な態度まで取り戻したのか、
昨夜の仕返しとばかりに、勝ち誇った笑みで、相手をねめつける。

しばらく、互いに睨みあいをした結果、
アルフォンスが、不穏な笑いを洩らす。

「フフフ、どうやらあなたとは、とことんやり合わないと駄目なようですね」

「望むところだ」

両者が火花を散らしている間に、エドワードはプルプルと身体を震わし、

「お前ら、いい加減にしろー!
 俺は、もう知らん。 先に行ってる」

と、さっさと部屋を後にする。

「あっ、兄さん、待ってよ~、僕も一緒に」
「エドワード待ちなさい、私と一緒に」

揃って声をかけ、またそれで睨みあっては、急いでエドワードを追いかける。
どけどかないと揉めた後、二人でエドワードを挟むようにして歩いていく。

それからの日々は、エドワード争奪戦参加者が2名になり、
毎日、エドワードの怒鳴り声が響き渡る事になった。

最後の晩、絶対に今日は一緒に寝ると言って聞かないアルフォンスに折れて、
リビングに毛布を持ち込んで、ごろ寝をする。

電気も消し、眠りに付こうとしていると、

「ねぇ、兄さん。 今、幸せなんだ?」

ポツリと聞いてくる言葉に、闇の助けもあって、エドワードも素直に答えれた。

「うん・・・すげぇ、幸せ」

「そっか・・・良かった」

「うん」

そう答え、アルフォンスの身体を、ポンポンと軽く叩いてやる。

そして、静かな帳が下りてくる。
長い間、寄り添うことでしか生きていけなかった兄弟は、
多分、どちらが一人幸せでも、本当の幸せを感じる事が出来ない。
子供の頃、命を賭けあって夢を追いかけ、叶え、
今も互いの幸せを、願い続けている。
そして、この先もずっと、誰よりも相手の幸せを願い続ける。



「じゃあ、長い間お世話になりました」

「おう、またいつでも来いよな。
 ウィンリとチビ助達にも宜しくな」

「ああ、今度は、皆でおいで」

和やかに別れの挨拶を交わす。

「あっ、そうだ、ちょっと待っとけよ。
 ウィンリー達に、お土産用意してあったんだ」

バタバタと家に走りこむエドワードに、視線を流し、
目の男に頭を下げる。

「色々と済みませんでした。
 でも、あなたが兄を大切にしてくれてるのは、解ったんで、
 一応、礼は言っておきます。
 ありがとうございます」


そう言って、頭を下げてくる相手に、ロイも驚いたようにしながらも、
きちんと、言葉を受け取った。

「いや、私もエドワードから聞いたよ。
 あれが大変な時に、本当にありがとう。
 君には、感謝する」

「いいえ、僕は僕の為にしたんです。
 あなたに感謝される謂れはありません」

毅然とした言葉に、ロイも苦笑する。

「君はもしかして・・・この1週間、私を試してあんな事を?」

やや過剰すぎるスキンシップも、ロイの愛情を計るためのものなら、
仕方ないと・・・そう、思おうと・・・。

「いえ? あれは、僕の兄さんに対する愛情表現です。
 兄さんは、僕の兄さんです、一生ね」

ニヤリと笑う表情は、どこまでも闇ろかった。

「アルフォンス・・・?」

「だから、これからも遠慮なく表現させて頂きます。
 あなたには、絶対に渡しません」

そう告げる表情も、瞳も、強い意志を漲らせている。

「アル~、お待たせ、ほらこれ」

と、差し出してくる物を受け取り、アルフォンスはじっと見つめる。
綺麗な強い兄は、アルフォンスの憧れであり、自慢だった。
そんな真っ直ぐな兄に、3度目の禁忌は犯させたくなかったから、
アルフォンスの幼い頃からの恋心は、仕舞い込むしかなかった。

それでも、兄弟の絆は、一生変わらない。
だから・・・絶対に邪魔し続けてやる、と心に誓う。

「アル?」

じっと自分を見つめて口を利かない弟に、エドワードは不思議そうに首を傾げる。

「ん、何でもない。 兄さん、早めにリゼンブールに1度、
 戻ってきてね」

「おう、なるべくこっちでの仕事にカタをつけて、
 行くようにするな」

明るい日差しのように笑みに、アルフォンスも笑い返す。

「じゃぁ」

と軽く手を挙げ、そのままエドワードの唇を奪う。

「アルフォンス!」

瞬間に上がるロイの怒声。

仕方ないな~と苦笑して、手を振り返すエドワード。

さようなら~と手を振りながら、去っていくアルフォンス。

すっかりと姿が見えなくなった頃、ワナワナと震えている隣の男に、
困ったように、宥めるように笑いかける。

「え、エドワード・・・さっきのは、一体?」

「えっ? 愛情表現、愛情表現。
 家族なら、普通だろ?」

気にするなとばかりに、強引に背中を押しながら、家に押し込まれていく。

『違う・・・絶対に、何か違う!』

この1週間で、友好的な関係を築く計画は潰れ、
ロイの中では、恋敵NO1として、危険視されるようになった、アルフォンスであった。

言いたい文句は山ほどあり、問い詰めたい事も山ほどある。
が、ご褒美とばかりに、大サービスのエドワードの態度に、すっかりと骨抜きにされ、
それらは、うやむやに流されていった。

その日から、リゼンブールに帰る時のエドワードに、
事細かな注意事項を与え、約束させるロイがいたとか。




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